まだ笑いの収まらないシルフィを、テフィオはぎろりと睨みつけていたが、不意にはっと息をのんだ。

新たに人の気配を感じたのだ。それも近い。

いまだに笑っているシルフィを、テフィオは慌てて伏せさせた。

「こら、みつかるだろ!」

その拍子にテフィオがシルフィを抱き込むような形になってしまった。

シルフィはどきどきして至近距離のテフィオを見上げる。

なんてきれいな瞳をしているんだろう、なんて思ってしまう。

人の気配が去り、自分たちの格好に気づいたテフィオは、大げさなまでに「うわあ!」と声を上げ、シルフィを突き離した。

見ればテフィオが耳まで真っ赤になっている。

―な、なんでだろう。

シルフィは逆に恥ずかしくなった。

今までは涼しい顔で抱き寄せてきたくせに、この変化は一体?

テフィオは失態を取り繕うように、ひとつ咳払いをしてから言った。

「とにかく! 俺は寝ない。見損なうな。体力には自信がある。揺るぎない剣の腕にもな。さっきも言ったが軍事訓練を受けているし、一日だって鍛錬を欠かしたことはないのだから」

二人のやり取りをじっと見ていたファイツが、不意にシルフィの服の袖を引っ張り、羊皮紙を要求した。

ファイツがそこに書いた一言。

『寝坊はするけどな』

テフィオは一瞬固まり、それから容赦なくガツンとファイツの頭に一撃をお見舞いした。

涙目になったファイツが、さらに羊皮紙につづる。

『本当のことを言っただけじゃないか』

シルフィは笑って同意した。

「ねえ? アハハハッ」

この時不思議な温かさを感じていたのは、シルフィだけではなかった。

テフィオも、ファイツも、感じていた。

三人の間に、何かが芽生えようとしていることを。