人身売買組織のアジトは、警察の目の届かぬ、ジュピテリオス郊外、さびれた下町ウランの廃工場の中にあった。

もとは気の加工場だったようだが、工場主が罪を犯したため放置されてきたという場所である。ここなら確かに、人目につかない。

深夜めがけてやってきたシルフィ、テフィオ、ファイツの作戦はこうだ。

アジトの中でもバリバウスが使っている部屋へ潜入し、人身売買の金の流れを記した巻物をさがす。バリバウスの筆跡がわかるものを探し出すのだ。それが動かぬ証拠となる。

バリバウスの筆跡の見本は、校長室に忍び入りあらかじめ入手しておいた。

アジト内のバリバウスが使っている部屋は、匂いでファイツがかぎつけてくれたので、三人は今、アジト内に潜入し、物陰からこっそりと、その部屋の様子を見張っていた。

途中牢獄らしき場所もみつけた。そこに大勢の人が囚われている気配があった。まさに売り出されようとしている人々だろう。首尾よく証拠をみつけたら、アジト内に軟禁されている人々を、一挙に救い出すつもりだった。

しかし。

至る所にかかる蜘蛛の巣、重そうな鉄扉、真っ黒にすすけた壁…。

シルフィたちが見張るその部屋周辺は誰も立ち入りそうもない荒廃ぶりだが、意外に人の気配が絶えず、三人ははやる気持ちをおさえて様子を見るしかなかった。

シルフィは、羊皮紙を差し出しても何も書こうとしないファイツが、何を考えているのか気になっていた。

妙に大人しい気がする。

光る苔とメッセージは、見てくれたはずだ。

少しは気に入ってくれただろうか?

しかしシルフィはあえて何も尋ねたりしなかった。

もとよりお礼が欲しくてやったことではない。ただ少しでも…妖精たちの、ファイツの、暮らしが良くなるよう、力を尽くしたかっただけだ。

食事から奴隷支配をなんとかする計画が頓挫した今、シルフィもいろいろと新しい作戦を考えている最中なのだ。