「じゃあここまでで。夜、また来るからね! じゃあね! ファイツ」

ファイツは見張りに見つからぬよう、するりと素早く寮に入っていく。

そうしながら、憂鬱を感じる。

広い世界を見れば見る程、この現実は辛い。

妖精は眠れない。

だから寮の牢獄のような部屋で過ごす夜はとても辛く長い。

森でのように植物たちと対話し瞑想することも叶わない。ただじっと、朝が来るのを待つだけだ。

ファイツはため息をつきながら自分の「部屋」へと向かったが、すぐに何か違和感があることに気が付いた。

いつものように暗くない…なぜか通路が、明るいのだ。

視界いっぱいに、輝いているものがある。

天井も、床も、壁も覆い尽くす、淡いライムグリーンの光。

これは一体…?

ざわざわと、部屋にいる妖精たちが騒いでいた。

「苔だ…光る苔だよ!」

「すごい…こんなに明るいなんて」

「植物の息吹が感じられる…これで夜、瞑想ができる!」

そう、苔だ。

寮中に光る苔が植えられていたのだ。

学校側がこんなことをするはずがない。

ファイツは胸騒ぎを感じた。