「どうしたの? テフィオ先生。ぼーっとして」

その時突然「本物」に声をかけられ、テフィオは思わずのけぞった。

「うわっ! 病原菌!」

『ひどい言いようだよ~テフィオ先生~』

そう声を送りながら当然のようにプチがテフィオの肩に乗ってくる。シャドウが何も言わずに足元で丸まる。

それをあたりまえと思ってしまうくらい、いつのまにかテフィオは彼らになじんでしまっていた。

ここは食堂で、今テフィオは午前の授業の監督を終え、昼食を食べているところだった。

向かいの席にシルフィが座り、弁当を広げ始めても彼女をあまり煙たく思わなくなったのは、いつからだろう。

シルフィは食べながら、少し身を乗り出して小声でしゃべりだした。

「作戦のことだけど…」

シルフィの言う作戦とは、もちろん、“人身売買組織撲滅作戦”のことだ。

リコリウスという少年から相談を受けてひと月あまり。

夏の二の月(7月)を迎えた今、ファイツは宣言通りバリバウス率いる人身売買組織のアジトをみつけだしていた。

バリバウスを尾行したのか。

否、それを許す程バリバウスは不用心ではない。

バリバウスが何かぼろを出したのか。

否、バリバウスは今まで通り完璧にふるまっている。

ではいったいどうやってみつけることができたというのか?

それは―――

「匂い」だ。

ファイツはその鼻の良さをいかして、バリバウスの私物から匂いを覚え、尾行せずともかたっぱしからその匂いのする場所を洗っていったのだった。そのうちに、見事アジトを発見した。

すぐに警察に通報してもよかった。

この国王ヴェネウェンティウムの治世、世継ぎたる皇子(ディウエス)セクスティウスの活躍もあり、警察組織が充実し、国内の治安は安定している。通報すればすぐに対応してくれたに違いない。

しかし、シルフィには懸念があるようだった。

抜け目のないバリバウスのことだ、少しでも警察が動くとわかれば、盗品や証拠の類はすぐに処分してしまうはず、と。
ゆえに、ここはアジトに潜入して、あらかじめ証拠をつかんでおこうということになったのだ(シルフィのこういうところがぶっとんでいるというのだ!)。