男の子の名前はリコリウスと言った。

「僕は“気(タルクィニル)”の力が…お父様の期待するほど強くないから…だから、お父様は僕を人身売買組織に売り払おうとしているんだ…」

「それは辛い思いをしたね…」

シルフィがリコリウスの頭を撫でる。

その手つきの優しさが、テフィオとファイツをひたすらに混乱させる。

「お父様はバリバウスと言って…有名な元老院議員なんだ…人身売買組織はお父様本人がやっているものだよ。だから逆らいようがない。僕は人身売買されるしかない。“気”が弱いんだから、僕はいらない息子なんだ…」

「バリバウス!?」

思わず叫んだのは今まで言葉を失っていたテフィオだ。

この少年、あのバリバウスの実子だというのか?

「そんなことないよ!」

シルフィはバリバウスのことよりも、リコリウスの相談内容の方を大切に考えていた。

「いらない子供なんていない! 絆(プティ)のない家族なんてない! 大丈夫、誰かを大切に想う心を、あたしたちはまだ失くしてなんていないから」

「でも……」

「家族を人身売買組織に売り払うなんてこと、させない。任せて、リコくん」

来週も会う約束をしてリコリウスが去ったあと、シルフィは猛然と羊皮紙に何か書き付けはじめた。

テフィオたちが覗き見ると、そこには“人身売買組織撲滅計画”とある。

『シルフィ、本気!?』

「本気だよ。人身売買は法律で禁じられているもの。バリバウスがそれをやってるっていうんなら、ここいらで組織をぶっつぶして、アジトをみつけて告発して、辞任に追い込んでやるよ!」

「簡単そうに言うな。むこうだって用心してる。アジトの場所など探しだせるはずがない」

しかし、テフィオの言を聞いて、ファイツがなぜかペンを持ちたがった。

そしてさらさらと丸文字でつづられた一言は…

『お前ら、バカか? アジトの場所くらい、簡単に突きとめられるだろ』