絆物語~クールな教師(アイツ)と狼少女の恋~

この時のファイツの胸の内は、激しい炎が荒れ狂うようであった。

自分のことならばまだ我慢ができる。

だが両親の侮辱は、耐えがたいものがあったのだ。

ファイツの両親は、彼の今の理解で言えば、繁殖奴隷と呼ばれる存在だった。

このジュピテリオスよりはるか南西に位置する「聖なる森」で、年一匹ずつ、オスメスの祈りにより聖木の樹液から子を授かること。彼らを育てることが役目だった。

ファイツの存在は、両親にとってひとつの挑戦だった。

人間たちに子は授からなかったと嘘を言い、隠して育てたのだ。

両親は奴隷となる子供たちの運命を嘆き、それに逆らおうとしたのだろう。

ファイツは知らなかった。

妖精たちが10歳になるまで森で育てられること。

それはそこでしか能力に目覚めることがないからであり、それを監督するために森勤務の妖精先生がいること。

彼らが好き放題に妖精を苛め、鞭打つこと。

能力に目覚めた後の、奴隷としての運命。

何も知らず、秘密の広場に隠され、両親の訪れを待った幼き日々。

「父様、母様、今日は何を教えてくれるの」

ファイツは伸びやかに成長し、よく笑い、よくしゃべり、よく学ぶ子供となった。

特に早く走れるよう特訓を受けた。それはきっと、人間に捕まった時に逃げやすくするためだったのだろう。ファイツは、時々遊びに来る兄弟たちの誰よりも早く走ることができた。

これがひとつの謎の答えだ。シルフィが以前見かけた、額に同じ模様を戴く二匹の妖精の謎。二匹の妖精はいずれも、紛れもなくファイツ本人であった。早く走ることができるために、ねずみ騒動のあと、すぐに汚れを落とし、何食わぬ顔で教室に戻ることができただけだったのだ。