調度品の何もかも、壁さえも黄金に輝く校長室の校長席にて、バリバウスは一人目を閉じていた。

机の上に手をかざし、眉をぴくぴくさせながら念じている。

しだいにかざした手から光が生まれ、輝き、見事な若い女の彫像となる。

“気像”と呼ばれるものである。

貴族たちの間で今流行の遊びだ。どれだけ微細に、表情までリアルにつくれるかを皆々で競って楽しむ。バリバウスは最後の仕上げをしようと気像に意識を集中したが―

突如、ばたんと勢いよく校長室の扉が開かれたため、集中を欠き、若い女の顔はぐにゃりと曲がった。

バリバウスがこの時点で不機嫌そのものになったのは言うまでもない。

「校長先生!!」

現れたのは赤い服の少女―シルフィである。

「おのれ…。誰かと思えば掃除婦の小娘ではないか」

「今はれっきとした、妖精先生(ファンタジェル・ラキスター)です!」

「ふん…救命の請願…いわば不虞(ふぐ)の気まぐれでなっただけじゃろうが」

「なに言ってるんですか。お魚の気まぐれでなったはずないじゃないですか」

「………」

突っ込み役のいないこの状況。

バリバウスが珍しく言葉を探して黙り込んでいると、シルフィは息せき切って話し出した。

「さっき、妖精たちの寮を見てきました!
なんであんな劣悪な環境に妖精たちを置くんですか? あまりにもひどすぎます! 今すぐ、変えてください!!」

バリバウスはこばかにしたようにふんと鼻を鳴らした。

「ひどい? 知らんのだろうが、街のいたるところにある妖精たちの住まいはもっとひどいぞ。それであたりまえなのだ。奴隷の扱いなど、あれで十分」

「な…んですって…」

では、ジュピテリオス50万と言われる妖精たち皆が、あんな環境で暮らさざるをえなくなっているというのか。

シルフィは怒りで、目の前が真っ赤になるのを感じた。