授業が始まってから一週間が経った。

シルフィは趣向を変えた試食をファイツのために毎日用意し続けてきたが、いまだはかばかしい成果はない。試食を食べるどころか、視線さえ合わせてくれない。授業も、聞いているのかいないのか…シルフィでなければめげるところだ。

しかしそこはそれ、シルフィである。彼女はやはりまったくめげていなかった。

ここまでは、当然予想の範囲内といったところだ。

ファイツにつくる試食ももちろんだが、明日からはもっと大勢の妖精を視野にいれてたくさん試食を持ってこよ
うと決意していた。

それよりもシルフィにとって気になるのはテフィオのことだった。

彼は謎が多すぎるのだ。

ひとつ。彼は大抵いつも午前の授業に堂々と遅れてやってくる。

朝、何か大切な、秘密の任務でもあるに違いないのだが、それはいったいなんだろう。

ふたつ。どうして“気剣”をつくらずに、木剣を持ち歩いているのだろう?

みっつ。シルフィを先生にした目的とは一体、なんなのだろう。

よっつ。シルフィを婚約者に偽装させる理由はなんなのか!

何気なく廊下を二人で歩いているときなどに、突然強引に抱き寄せてくるのを、なんとかしてもらいたいと切実に思う。

彼の言うところの偽装らしいが…(誰に対しての? それすら教えてはくれない)。

「いいから大人しく婚約者のふりをしろ」なんて言ってくるのだが、シルフィはいつも猛然と暴れる。

なぜなら、相当鍛えている厚い胸板にすっぽりと抱き込まれてしまうと、今まで味わったことのないような変な気分になるからだ。