晴れ渡った空に、白い雲が心地よさそうに浮かんでいる。春(ラメ)の三の月(五月)、日差しは世界をやわらかな優しさで包み込む。ファイツを肩に乗せたシルフィは、その優しさを全身で味わうように空に向かって伸びをした。

「日差しはすべてを照らす。雲は時に日差しを隠すけれど、雨を降らす。雨はすべてを潤す。潤った植物が動物の糧となる。そうして互いに関わり合って、つながっている。これが、どこにでもある大切な絆(プティ)。絆(プティ)について知る、第一歩だよ」

むっつりと押し黙りながらもテフィオがシルフィを教室に返すでもなくついてくるのには理由がある。

意外にシルフィが、“理科”を真面目に教えているからだ。

シルフィは春に花をつける雑草やキノコ、植物全般に非常に詳しく、よどみない解説は文句のつけようがないほどだった。

「さあ、ついたよ。この学校一素敵な場所。掃除婦の時に、見つけたんだ」

三人が辿り着いたのは、さわさわと風が流れる小高い丘の上だった。

教室のある右棟から裏門へ向かう道の間、裏庭を越えた所に、その丘はあった。教師の休憩のためにつくられた場所だろう。よく手入れされたやわらかな芝生の絨毯は、どこか広大な草原を思わせる。

「この樹は知ってる? ファイツ」

シルフィは丘の上に一本、すんなりとした美しいシルエットの立ち姿を見せる樹に手を伸ばした。

「月桂樹。今黄色い花をつけてるね。この花は秋(マルス)の一の月(九月)、秋の二の月(十月)には暗紫色の果実になるよ。この葉っぱ、光沢があって、独特でしょ?香辛料にしたり、健胃剤としても使うんだよ。この樹は花の色合いのせいかな、人間の樹とも呼ばれていて、町中に植えられてるんだ」

黄色は光の加減で金色に輝く色。

ゆえに人間たちは黄金都市にこの樹を植え、それ以外の色の樹を植えてはならないこととしたのである。しかし学校では寮にとらわれ、奴隷となってからは施設の奥にとらわれる妖精たちに、その様を見る機会はなかった。