テフィオはしばらく瞠目してそんな彼女らを見ていたが、不意に口元を歪めて笑った。

「ふっ…面白い。シルフィといったか」

「うん」

「お前を、たった今から俺の“婚約者”とする」

「……………は?」

シルフィは何か単語を聞き違えたのかと思った。

突拍子もないとはこのことだ。

普段彼女ほど突拍子もない人間はいないというのに、その彼女をしてそう思わせた。

それほど突拍子もないことであった。

テフィオがすっと背筋を伸ばして堂々とシルフィに歩み寄ってきた。

そして肩をつかまれ、上向かされてもまだ、彼が何をしようとしているのかシルフィにはわからなかった。

なにせ、恋愛経験など皆無のシルフィである。

「は? え?」

テフィオが屈み込んできた。

距離が近い。

そのことに、何か違和感をおぼえたときには、すでに遅かった。

シルフィの唇は、何かあたたかくてやわらかいものにふさがれていた。

周囲がざわついている…そう思った時には、ぬくもりはすでに離れていた。

何が起こったのか。

至近距離にある形よい唇に、やっと事実が理解できたときには―

シルフィはあまりのことに赤面し、くらくらと眩暈をおこして倒れていた。

『し、シルフィ、だ、大丈夫!?』

脳裏に直接響くはずのプチの声を遠く感じる。

(い、いきなりキスって、そんな、そんな、…
 なんてことするのよ王子様―――――――!!)

うぶすぎるシルフィはそのまま、意識を手放したのだった。