シルフィは「あ~っ」と叫ぶと賊に近寄り、襟首をつかみあげた。

「ちょっと! どうして妖精たちを狙ったりしたの!」

護衛のみなを傷つけたうえ、大好きな妖精をさらおうとした彼らに、シルフィは憤慨していた。どんな吉報のあとだろうと、許しがたいものは許しがたい。

シルフィの剣幕に恐れをなしたのか、賊は小さく呻きながら、とぎれとぎれに答える。

「あ、愛玩奴隷に、するために…正規のルートで買うと金がかかるから、さらおうと……」

「愛玩奴隷!? なんてこと! 許せない~!」

「ひ、ひ~っ」

シルフィと賊のやりとりをそばで観察していたテフィオが、ぽつりとつぶやくように言う。

「別に、珍しいことでもないだろう。そもそもこの国で、すべての妖精は人間の奴隷なのだから」

不意に一陣の風が吹き抜けた。

風が運ぶ、声はない。

シルフィの瞳が濡れたように静かな光を宿す。

そして、テフィオを振り返ったとき、その瞳は光の奥に、燃え盛る炎を宿していた。

シルフィの声が、響き渡る。風に乗らずとも、周囲の人々の耳に届く。

「うん…わかってる。だからあたし、それを、変えるために来たの」

シルフィの瞳に宿るのと同じ炎を宿して、プチとシャドウがテフィオを見た。

三人の背後には、それ以上の炎が燃え盛っているように見えた。