―その時。

一体何が起こったというのか。

確かに振り下ろされたはずの刃は二人を傷つけなかった。

突然シルフィの目の前に割り込んできた人影が、手にした剣で刃を受け止めたのだと気づくのに、数瞬を要した。

短い茶色の髪が風になびき、細いがしなやかに筋肉のついた体が目を奪う。

まだ若い、青年の後姿だ。

この直後に訪れた驚きは、シルフィの人生の中でも指折り数えられるものであった。

青年はなんと、賊の気剣を、ただの木剣で受け止めていた。

さらに、青年は鮮やかな身のこなしで逆に賊に打ち込み、みぞおちをついてあっというまに気絶させた。

これに色めきたった賊たちが一斉に青年に矛先を向けた。

青年はかがんで一人の足を払い、剣先と柄の一部を器用にかざして二人の剣をふせぐと、一人の顔面に肘を打ち込み、もう一人の隙をついて喉を一突きにした。

青年の得物はただの木剣であるのに、彼の持つ圧倒的な剣の技量がそれを感じさせなかった。

それどころか、彼の見事な動きを見ていれば、明らかに青年の方が有利に思えてしまうくらいだ。

それは実際に剣を交えた賊たちがもっとも痛感したのであろう、彼らはさらった妖精を連れて退却にかかった。
しかし青年は素早く動き、それを許さなかった。

「絶対に妖精は、傷つけさせない!」

はりのある声が青年のものであると気づいた時、シルフィの中にひらめくものがあった。

青年は逃げようとする賊を、わずかな間に一人残らず気絶させ、事態は一気に収束を見た。

運動場には伸びた賊があちこちに転がり、怪我を負った護衛たちがうずくまっている。

「…すごい…かっこいい…」

シルフィはしばらくぽ~っとなって青年をみつめていた。

まるで王子様だと思った。

誰かに大してこんなふうに思うのは初めてだ。

いったい彼は何者なのだろう。