冬(ゲルマ)の三の月(おわり)のまだひんやりと冷たい空気の中、水たまりに映る青空をばしゃりと乱して、少女が駆けている。

黄金の広場(フォロ)の人波をすりぬけ、全力疾走だ。

この国ファンタスティスでは珍しい、黒髪に黒い瞳、はっとするほど白い肌を持つ彼女の名はシルフィ。

目鼻立ちのはっきりとした整った顔立ちからは明るいエネルギーが溢れ、いかにも溌剌とした印象がある。それは肩先で元気にはねる彼女の髪のせいでもあるだろう。

シルフィは、帝都近くの迷いの森に、動物たちと共に住んでいる。不意に彼女の脳裏に直接声が聞こえてきた。

『シルフィ、丁度船が来たよ!! 乗る!?』

それは彼女の頭上で翼を広げる黄色と黄緑の鳥から発された“声”だ。この鳥は、数年前ある事件をきっかけに、人に声を送る能力を得た。シルフィが見やると、ちょうど少し先の停船場に黄金の船がすべりこんでくるところだった。

「もちろん!!」

シルフィはそう答えたが、――

停船場をそのままの勢いで走り抜けた。

『「乗らない!!」』

一人と一羽の声が重なる。

『「だって、いついかなる時も自らの力で物事を成すべし。それが妖精先生(ファンタジェル・ラキスター)だから!」』

息ぴったりに言い切ると、彼らは笑み交わした。