「こんなところで何してるの? …って、え…もしかしてここ…」

シルフィはあることに気が付き思わず室内へと足を踏み入れていた。

卓の後ろの壁に、明らかにあとから取り付けたような黒板があったのだ。

使いかけのチョークが黒板受けに置いてある。黒板に、チョークとくれば…。

「教室!? ふあ~こんな教室、あるんだ」

雨漏りしそうな屋根に、隙間風を感じるいい加減な石積みの壁。あちこちぼろぼろで埃をかぶってはいるが、どうやらここは教室のようだった。

妖精は突然の闖入者にも微動だにせず、無表情で虚空を見つめている。

戸口で妖精をじーっと見つめていたシャドウが、おもむろに歩き出すとベロン、と長い舌で妖精を舐めた。どうやらカワイイ、と思ったらしい。

「なんで一人でいるの? 先生は?」

妖精は答えない。視線ひとつ動かさない。まるで聞こえていないかのようだ。

『や、やめなよシャドウ』

プチが思わず声をかけたのは、シャドウが妖精を無理やり鼻の頭に乗せようとし始めたからだった。

シャドウはちらりとプチに視線をやり、“止めてくれるな。カワイイものは鼻に乗せたい。わらわの本能だ”とでも言いたそうだ。

妖精はとうとうシャドウの鼻の上に乗せられてしまったが、まったく動じることもなく、置物のように大人しい。