持ち場にたどり着いたシルフィは、驚くほどの手際の良さで掃除を始めた。

持ち前の足の速さでモップ掛けをし、乾拭(からぶ)きをする。

ラジエットも褒めそうな素早く正確な掃除っぷりである。

これはシルフィが特別掃除上手だというわけではなく、単に廊下掃除とシルフィの相性がよかっただけである。

あっというまに掃除を済ませたシルフィがプチ、シャドウと敷地内をぶらついていると、右棟の外れに明らかに“気(タルクィニル)”でできていない石積みの倉庫のような建物を見つけた。

気でできていない建物は、辺境ではよく見かけるが、この都では珍しい。ましてや金ぴかの学校の敷地内なのだ。

「何、ここ?」

好奇心旺盛なシルフィのことである。すぐにぽっかりと口を開ける建物の入り口から中を覗き込んでみた。

採光窓からの薄い光が照らしだす室内は、倉庫の割にからんとしてほとんど何もなく、木の卓のようなものの向かいにぽつんとひとつ小さな机といすが置かれている。

「―!?」

一度は素通りした視線を元に戻し、シルフィは我が目を疑った。よくよく見れば、椅子の上に赤い毛皮の妖精(ファンタジェル)が一匹、ちょこんと座っていたからだ。しかもその額の模様に見覚えがあった。

「あ~! あなた! ひと月前面接室で会った妖精さん!」

そう、その妖精の額の模様は三日月を中心にした花の形。妖精には同じ模様を戴く命はふたつとないというから、紛れもなくあの日出会った妖精だった。