その時、柱廊の反対側からこちらに向かって、仰々しい一団が近づいてくるのが見えた。先頭に長い白髪の男が見える。シルフィはあっと声をあげた。よくよく見ればその男、あの校長バリバウスだったのだ。

互いの顔が確認できる位置まで来ると、シルフィは元気いっぱいに挨拶した。

「校長先生、おはようございます!」

何事もひきずらないシルフィらしい挨拶だった。

「おい、そこの掃除婦、作法通り道を開けなさい」

取り巻きの一人が厳しい声で叱咤する。

「ああ、そうだった、すいません」シルフィは悪びれない笑顔で道を開けたが、取り巻きたちは嫌悪感もあらわに顔をしかめた。

「なんと礼儀知らずな。これだから卑しい者は。さ、行きましょう、校長」

バリバウスは立ち止まってじろじろとシルフィを眺めまわしている。

「うむ…? はっはっはっ、これは傑作だ。よく見ればお前、先日面接に来た身の程知らずの小娘ではないか! 掃除婦とは、ハッ、いいザマだ」

バリバウスに鼻で笑われても、シルフィの表情は変わらない。この男の嫌味には慣れてきた。

「言っておきますけど、あたしまだ諦めてませんよ。なってみせます、先生に」

「ファッハッハッ! なれるものか。お前がなれるような日が来たら、自作自演の動物人形劇でもやってやるわ!」

動物人形劇とは、ちまたで流行っている人形劇で、すべての人形を気で作ったものだ。しかし女子供が観るものとされ、演者も大抵女と決まっていた。バリバウスのような壮年の男がやるのは恥ずかしいこととされているのだ。