しかし植物はしぶとかった。

妖精たちの炎を受けると、逃れようと激しく身をよじりその動きで炎を消してしまう。

アンティストは炎の中に飛び込み、植物が燃えるようがっちりと抑え込んだ。

これには妖精王も面食らった。

慌てて炎を消そうとすると、アンティストは「燃やしてくれ。燃やし続けてくれ」と嘆願する。

「だがお前の命が…」

「命など、惜しくはない! この村を守りたい。守って、幸せの土台をつくる手伝いがしたい。たくさんの人のたくさんの幸せが紡がれるように。それがいつかこの大地中に広がっていくように。私はそのために生まれたのだと思っている。だから命など、惜しくはない!」

「なんと………」

「アンティスト様の言う通りです。我々も命など惜しくない。我々が抑えますから、植物を燃やしてください!」

村の男たちも口々にそう言って、燃える植物を抑え込んだ。

彼らのがんばりのおかげですべての植物は燃やされ、水で洗い流された。

すべてが終わると、やけどした体でアンティストは深々と礼をして妖精たちに感謝を述べた。

それを聞いた妖精王はしばし考え、こう言った。

「…人間は、よいな。私たちは森でひっそりと暮らしながら、いつか人のような友を得たいと、ずっと思ってきた。…皆、同じ気持ちだ。私たちもここに残る。共に行こう、友よ。どこまでも共に」

「本当か!」

「友情の証に我が力で祝福を与えよう」

妖精王の祝福とは、人間と妖精の“契約(ファントリエル)”。妖精が生涯に一度、これと定めた人間と契約を結ぶことによって、その力を三倍にまで飛躍的に高められるというものであった。

妖精王とアンティストはたいまつ燃え盛る広場の中央、しっとりとした夜の静寂の中で、互いの指を切り、血を混ぜ合わせた。

「我らが出会いを寿ぎて、ここに血の契約を成就する。我が与えたるは聖樹より与えられし焔水の力」

「我が応えたるは神より授かりし黄金の光の力」

「「〈契約(ファントリエル)〉!」」

二人はしっかりと、手を握り合う…。