―半年前。

青き天の下、緑の地平の中に、浮かび上がって見える巨大な黄金色の輝き。

あれは地上の太陽であろうか。

風になってぐんぐんと近づいてみれば、その正体は巨大な街。壁も屋根も道も黄金色に輝く黄金都市だ。

風は黄金の衣服に身を包んだ人々の間をすり抜け、黄金の船の舳先に立つテフィオの茶色い短髪を揺らして彼方へ去る。

「水晶占い、水晶占い。ぴたり的中、安いよ~へい、そこのダンナ」

陽気な声と共に肩を叩かれ振り返ったテフィオの瞳は、ひざしを宿した森の緑。その瞳はわずかに苛立ちを宿している。

彼が乗るこの“船”は、一度に数十人を乗せて走る小型船で、見事な草木の彫刻が施された船体と、神の像が手を広げた船首が美しい。

町中に張り巡らされた水路を、数分おきに次々と行き来し人を運ぶ。

人々が歩く代わりにもっとも頻繁に利用する重要な交通機関だ。

それゆえに人の多さをあてこんでこうした商売をする者も多いが、今のテフィオのようにただ先を急ぐ目的で船にいる人々にとっては迷惑でしかない。

そんな心中など知らぬげに、陽気な占い師の男は勝手に占いを始める。そうして有無をいわさず代金をせしめようという魂胆なのだ。

「おおっ見える! ダンナ、今日は“運命に定められし出会い”の日になりますよ」

「運命に定められし出会い?」

テフィオは男に流した視線をつまらなそうに正面に戻した。

「俺は定められた運命など信じない。運命とは自分で、つかむものだ」

「六番街~六番街~!」

七色の水しぶきをあげて、船が止まった。

テフィオは手にしていたリンゴを一口かじると、「代金だ」と男の手元に投げつけた。

リンゴは見事男の手に命中し、男は水晶を地面に取り落してしまう。

しかし水晶は割れなかった。

水晶はフェイクだった。

つまるところイカサマだったのだ。

ばつが悪そうな男には見向きもせずに、テフィオは船首から身軽に飛び降りた。

船の中央に位置するじゃばらのような乗降口を使うのも待てないほど、彼は急いでいた。すぐに強く地面を蹴って駆けだす。

―そう、今日は自分で、運命をつかむ日だ。

目の前に広がる黄金の街のまばゆさに、ふと彼は思う。

ここは地上の太陽であろうか。それともただの虚飾の光か…。

水たまりが映し出す青空をテフィオは飛び越える。