愛しい少女を追うかのように、二人が無意識に花びらへ手を伸ばした時だった。

二人の背後から、誰かが駆けてくる軽やかな足音が聞こえた。

反射的に振り返った二人は、目を見開き、絶句するよりほかなかった。

幻を見ているとしか、思えなかった。

プティの樹液で染めた赤い衣、惜しげもなくさらした素足。手首で結ばず流したままの腰布。

今駆けてくる人物は、二人のよく知る少女と酷似していた。

三年前喪ったはずの…。

しかしひとつ違うところがあるとすれば、それは漆黒のつややかな髪の長さだ。

駆けてくる彼女は、腰まで届く長い髪を風に舞わせ、微笑んでいる。

記憶にあるより、少し大人びた表情で。

「テフィオ先生、ファイツ」

幻がしゃべった。

「ただいま!」

紛れもない肉声が耳に届いて、二人はやっと我に返った。

「シ…ル…フィ?」

―幻じゃ、ない…?

『も~っ待ってよ~! 早いよシルフィ~』

あたふたと飛んでくる小鳥はプチ、我関せずときのこを鼻の上にのせながらのそのそ歩いてくるのはシャドウではないか。シルフィに殉ずるように姿を消していたはずなのに。

「プチ…シャドウ!?」

「ど…して…」

テフィオの体も声も震えた。

到底信じられない。