「全軍、止まれ――――!!」

すんでのところで、大群はその前進を止めた。

妖精王の祝福を受けし人間を、殺めてはならないと思ったのだ。

「お願い、止まって!」

少女―シルフィの叫びが風に乗って妖精たちに届く。

妖精たちの中から、一匹の年かさの妖精が進み出た。

「妖精王の祝福を受けし娘よ、なぜ止める。我らの怒りはもう限界を超えた。
おごりたかぶった人間どもを攻め滅ぼすこと、そののち我らは新たな楽園へとゆくこと、それこそ妖精王の意思。そこをどくのだ」

「どかない!!」

ぼろぼろの衣服。

血のにじんだ頬。

それなのに、毅然として言い放つ少女の姿には、神々しささえ感じさせる何かがあった。

妖精たちは思う。

まさか“運命の英雄”はこの少女なのでは、と。

「あたしは妖精先生(ファンタジェル・ラキスター)だから!
絆(プティ)を育て、守る、妖精先生だから!
だから…どかないよ!」

「絆(プティ)などとうにない」

年かさの妖精は疲れたような、諦めきったような声を出した。

「そんなことない! そんなことないよ!

ずっと見てきたんだ…絆はどこにでも、ちゃんとある。なくなってなんかいないって!
お願い、気づいて。人間を、見捨てないで―――」

シルフィの言葉はそこで途切れた。