妖精の大群は、ジュピテリオス各地から集まり、帝都南の方角に固まってやってきた。

彼らは皆、妖精王の思念を聞いて集ったのだ。

今こそジュピテリオスを、人間を攻め滅ぼせと。

今こそ積年の恨みを晴らす時と。

そののち、妖精たちの真の楽園へと道を開かん―と。

血気にはやった彼らの前に、帝都の外門が見えてくる。

このままなだれ込んで一網打尽だ。

誰もがそう思っていた矢先、小さな人影が走り込んできた。

華奢な少女だ。

それもたったの一人きり。

帝都を守るように両腕を広げ、きりりと唇を引き結んでこちらを見据えている。

しかし、立ち止まろうとする妖精はただの一匹もいなかった。

それほど彼らの怒りは大きかった。

いくら妖精たちが小柄だとはいえこれだけの数に踏み倒されれば少女は圧死するだろうが、人間の一人などもはやどうでもいいと思っていた。

しかし――

少女が突然声を発した。

「エトル・アル・ヴァハル!!
 エトル・アル・ヴァハル!!」

その声はすべての妖精の脳裏に響き渡る不思議な魔力を持っていた。

これは、紛れもなく、妖精王の魔力だと皆気が付いた。