〈気(タルクィニル)〉とは、この国の者なら誰もが扱える、金の光を自由自在に形作る能力である。

神の息子である建国者アンティストより受け継がれたこの力を使えば、布のように柔らかいものから金属のように硬いものまで瞬時に生み出すことができる。

この国では衣服、建築もさることながら、食器から櫛(くし)、杖に至るまで、何もかもがこの黄金色の〈気〉でつくられている。それゆえに黄金都市と呼ばれ、この力によって生み出される強力な〈気剣〉のおかげで強大な帝国となれたのである。

「殺す!」

「やめてください!」

次の瞬間面接官たちの悲鳴が上がった。

バリバウスが妖精に向かって振り下ろした剣を、なんとシルフィが素手で受け止めていたからだ。

剣は当然シルフィの両手を傷つけ、どくどくと血が溢れだしている。

「殺す? こんな、ちょっと、暴れたくらいで? ありえません。剣を収めてください」

二人の間で激しい視線が交わされた。

炎を連想させるような視線であった。

やがてバリバウスの目が剣呑な光を宿し、彼はぐっと剣先に力を込める。なんと、そのままシルフィの手を切り落とそうというのだ。シャドウが視線を険しくして立ち上がる。

「校長先生! おやめください!」

「どうかおやめください! 評判が!」

評判の一言が効いたのか、不意に気剣がふわりと霧散した。

気剣は、作り上げてから数十分の間なら、使用者が自由に消すことができるのだ。

建物をつくる材料にするときはその性質が危険視されるため、時が経ち存在が固定化されてから使用されている。

騒ぎのもととなった妖精はといえばとっくにとんずらしていた。

「ふん。部屋が血で汚れる。出て行け小娘」

シャドウが、問答無用でシルフィの背を押した。今すぐに止血や治療が必要だと判断したのだ。シルフィもそれには逆らわなかった。

「ありがとうございました。失礼します」

踵を返したシルフィの背後で面接官たちが慌てて倒れた机を元に戻し、ちらばってしまった羊皮紙の書類をかき集めている。

『あ………』

その時、プチは見た。

面接官が、シルフィの応募用紙ではなく次のテフィオリウスという人物の応募用紙を一番上にしてしまい、そこに大きく不採用と書き込むのを。

「次、テフィオリウス・リゼル、入りなさい」

(――って、ことは、もしかして!?)