この時ほど、皇子として生まれてよかったと思ったこともなかった。

民衆たちがとまどっている隙にテフィオはシルフィの縛めを解いた。

「テフィオ先生…ありがとう」

シルフィには意識があったらしい。

頬をわずかに紅潮させて彼女が見せた笑顔。

この凄惨な場にはあまりにも場違いなその笑みが愛しくて、胸が熱くなった。

この時気が付いた。

いつのまにか自分は、彼女のことを―――…。

「ファイツも、ありがとうね」

―ファイツ?

そう言いながらシルフィが足元に視線を落としたので、テフィオもそちらを見やる。

するとシルフィの足元で必死に両腕を広げ、シルフィを守ろうとしたらしい一匹の妖精の姿があった。シルフィの声が届かなかったのだろう、いまだに震えながら目を閉じている。

「ファイツ…」

テフィオがはっきりとした声で呼びかけると、ファイツがはっと目を開けた。

「ファイツ…よくやった」

テフィオが笑うと、ファイツも少し笑った。

やっと三人の心が通い合った瞬間だった。