「シルフィ…」

我知らず、彼女の名を呼ぶ。

彼女を―――

死なせたく、ない。

はっきりとそう思った。

それは、なくしていた大切な大切な宝物が、やっとみつかった時に似ていた。

それでやっとテフィオの手足が動いてくれた。

彼の全身が、やっと、想いのままに動いてくれた。

「殺せ―――!!」

飛来する瓦礫。

テフィオは木剣を閃かせ、飛来するすべての瓦礫の軌道を変えてうまく流した。

激しい動きでバリバウスにやられた腹の傷口が開いたが、構わなかった。

この時ほど、剣技を学んでおいてよかったと思ったことはなかった。

テフィオは堂々と民衆の前に立つと、皇子として鍛え上げられた発声で宣した。

「やめろ! この娘に手出しはさせない!」

民衆から怒りの声があがる。

「誰だあんた! 邪魔するな!」

テフィオはすっと目を細めると、背筋を伸ばし、身分証を掲げた。

「俺はテフィオリウス・ジュピ・ファゼルナード。
この国の皇子だ!
控えよ!」

これは効いたようだ。

ざわざわと民衆が騒ぎ、手にした瓦礫をどうしたものかと迷い始めた。