バリバウスはこのずれた少女とのまともな会話を諦めたようで、今度は独り言のようにこう吐き捨てた。

「お前のような小娘が妖精先生になど、100年かかっても無理だわ」

このセリフが、どうやらシルフィに理解できる最初の嫌味なセリフだったらしい。

シルフィの表情が変わった。

余裕の笑顔はそのままだが、わずかに視線が尖る。

怒ってはいない。彼女は滅多なことでは怒らない。

ただ強い反対意思が芽生えたのだ。

「そんなこと、ありませんよ。必ずなります」

鋭いまなざしが交錯し、静かな火花が散った。

その時だった。

何か赤い影が弾丸のように室内に飛び込んできた。

まっすぐに壁にぶつかり反動でランプを粉々にし、ぐるんと飛び跳ねざまカーテンを引き裂いたそれは、赤い毛皮の小さな生き物だった。

シルフィはぱあっと瞳を輝かせた。

このレッサーパンダという動物に酷似した生物こそ、遥か昔より共に住む“妖精(ファンタジェル)”であり、シルフィは彼らが大好きだったからだ。

乱入してきた妖精はバリバウスの顔面をひっかき、二人の面接官の鼻面を蹴ると、シルフィに向かって突進してきた。

力強く跳躍し、シルフィの額に頭突きをする。妖精の額にある三日月を中心とした花の形の模様が迫ってくる。

シルフィは、避けなかった。額と額がぶつかったその瞬間、至近距離で妖精とシルフィの目が合った。

妖精は何かに驚いたように瞳を見開き、慌てたように身を引く。

「私の顔に傷を…。忌々しい妖精め! よい度胸だ」

バリバウスが机を蹴飛ばし、不意に右手を胸元に寄せ、外側に振り抜いた。

その動作の間に彼の右手の中には金色の光が生まれ、それが見る間に剣の形となり、さっと温度が冷めるように確かな金属となる。

〈気剣〉―タルクィニルゾディアである。