シルフィが唇をぬぐい、教室を出ようとテフィオに背を向けた。

ファイツを探しにいくのだろう。

テフィオは追うつもりがなかった。

ただ、何やら胸がもやもやする。

二人の涙を思うと、やるせない気持ちがわきおこってくる。

(これでいいんだ…)

テフィオは何かを諦めるようにシルフィから視線を外した。

すぐにその小さな背中は彼のそばから離れていくはずだった。

しかし――

突如教室に踏み込んできた荒々しい足音の主たちによって、シルフィは立ち往生することになった。

皆役人の制服を着ている。

そして最後に現れたのが、誰あろう、あのバリバウスであった。

「シルフィ・レピエンス。
そなたが忌み子であるとの通報をバリバウス老より受け、捕縛しに参った。おとなしく来なさい」

「!!」

「私が調べたのだ。お前を失脚させようとしただけだったが、とんだ拾い物だ。お前が十数年前辺境の村アカサイテから逃げ出した忌み子だということは、もう調べがついている。処刑だ処刑だ…ぶわはははは!」

あまりに突然の、不意打ちの出来事に、彼女には抵抗する間もなかっただろう。

あれよあれよという間に、シルフィは手錠をかけられ、役人たちに連行されて行ってしまった。シルフィは助けてとも、何も言ってこなかったが、連れ去られ際一度だけ、テフィオを振り返った。

その視線は何かを訴えていたが――

テフィオはそれを受け取ろうとはしなかった。