ファイツは悩んでいた。

悩みすぎてどうにかなってしまいそうだった。

愛玩奴隷にされ連れ去られた兄により告げられた、真実。

“両親の仇が、テフィオリウス―”

奴を殺せと、兄は言った。

以前の自分なら迷いなく、そうしていただろう。

しかし今のファイツには、なぜかそれを押しとどめる謎の感情があった。

ずっと憎み続けてきた人間。

ずっと狙い続けてきた人間への復讐。

それを叶えるために、自分は努力をしてきた。

教室を抜け出し、保健室に忍び込んだのは、復讐に使う毒を入手するためだ。

シルフィが静めたねずみ騒動も、そのためのものだった。

すでに毒は手に入れている。

オニゲシ――麻酔、鎮痛、下痢止めなどに使われる薬だが、150ミリグラム以上用いると呼吸困難に陥る毒。

クサノオウ―鎮痛、胃潰瘍などに使われる薬だが多量に用いれば脳がマヒする毒。

復讐は簡単だ。これをテフィオの飲み水に混ぜればよいのだ。

両親を殺された悔しさを、ファイツは一日たりとも忘れたことがない。

今こそ復讐の時だというのに、自分はいったいどうしたのだろう…。