玉座の横に立っているのは誰だろう。

さらりとした黒髪の美しい、少したれ目の若者。玉座の横に立つからにはおそらく―

「こら! 小娘! 頭を下げないか! 畏れ多くも陛下の御前であるぞ!」

「国王陛下!」

シルフィは面倒な洞察をすっぱり諦めて、直球勝負に出ることにした。

その場に跪き、首を垂れる。

「わたくし、お願いがあってやって参りました!
どうか、この国のありかたを根本から見直してください!
妖精奴隷を解放し、絆を取り戻してください。
さもないと本当に、アンティスト様と妖精王様による伝説の炎で、この街は人間もろとも焼き尽くされてしまいます!
時間はかかるかも知れません。けれどまずは理想を、掲げていただけませんか。妖精と友達に戻るという理想を。それができるのは国王陛下、あなたしかいらっしゃいません! それだけでもやってくだされば、アンティスト様たちに猶予をいただけるかも知れません、ですから―」

「無礼であるぞ小娘!」

衛兵の一人がシルフィの口をふさごうとするが、シルフィはなおも言い募ろうと顔を上げた。

しかし顔を上げたその時、視界の端によく見知った人物の姿をみつけて息をのんだ。

「テフィオ先生! 休日だから皇宮に戻っていたの?」

そう、玉座から離れた脇に、立派な皇子の正装の身を包んだ、いつにも増して凛々しいテフィオの姿があったのだ。

国王が意外そうに口を開いた。

「なんだ、テフィオの知り合いか?」