ジュピテリオス皇宮は、その広大な敷地と主宮殿黄金のドームの美しさから“黄金の巨鳥”との異名を持っていた。

なるほど確かに、主宮殿を中心に鳥が翼を広げたように広がる各官舎、孔雀園、薔薇園その他は、その名にふさわしい威容を誇る。

至る所に美しい庭木が植えられ、虹色に光りを弾く噴水が高く低く水しぶきを上げる。三日かけてもすべて見てまわることができないと言われるほどのその広さにも関わらず、何百人もの使用人と妖精奴隷たちによって、隅々まで手入れが行き届いていた。

先生の試験勉強のため動物たちには皇宮に潜入してもらったことがあるが、シルフィが入るのは、初めてだ。

しかも、こんなかたちで。

すなわち衛兵に囲まれ、王の御前へと引っ立てられる形で。

「国王陛下、立ち入り禁止区域に侵入していた怪しい者を引っ立ててまいりました」

正規の手段をとるより格段に早く謁見の間に通されたことに、シルフィは内心ほくそ笑んだ。

これが狙いだったのだ。

こんなチャンスは滅多にあるものではない。

国王と直接言葉をかわす、チャンス。

「なんだ騒々しい」

至高の玉座に座したその人を、シルフィは穴の開くほどじっと見つめた。

国王ヴェネウェンティウムは、威風堂々としたたたずまいの、四十がらみの男だった。白髪交じりの茶色の長髪を首の後ろでゆったりと結わえている。その体からは生気があふれ出るようで、それは彼の持つ独特の余韻を残す声のせいかもしれない。