実に二年もの間、二人は家族のようにそばにいてくれた。

だからシルフィにとって二人は、育ての親と呼べるものだった。

アンティストはシルフィに、絆について教えてくれた。

大地に満ちる絆、生き物たちすべて、自然すべてにつながる絆のこと。

しだいにシルフィは、空を見上げ、様々な命と共にこの大地に生きること、そのすべてがかけがえのない幸せなのだと思うようになっていった。

それは大切な学び。

シルフィの根幹をなす学びだったと言ってもいい。

けれど満ち足りた日々はあっというまに過ぎ、別れの日はやってきた。

シルフィは旅立つ二人を前に、涙を必死でこらえることしかできなかった。

「太陽が七日間姿を隠す暗陽節の日に、我々は再び戻ってくる。それが期限だ。約束を忘れるな。必ず、その時までに絆を取り戻すんだぞ」

「はい…。はい、アンティスト様、妖精王様」

「ではな」

二人がシルフィたちに背を向ける。

「待って!」

思わず、シルフィは叫んでいた。

そしていったん家の中へと駆け戻ると、その手にナイフを持って再び二人の前にやってきた。

そのナイフでシルフィは―

自らの長い髪をばっさりと肩口で切り落とした。

家の前に植えられたプティの樹の花が、はらはらと散り、短く広がったその髪を撫でていく。

「あたしを覚えていて」

シルフィは涙声で言った。

「約束を果たすまで、この髪、絶対に伸ばさないから。それなら、遠くにいてもわかるから。だから、あたしを覚えていて」

瞠目していた二人は、やがていつもの穏やかな、優しい笑みを浮かべて頷いた。

「ああ、約束するよ。その髪を目印に、どこにいても、君を捜しだすだろう」

アンティストは最後に、シルフィをぎゅっと抱きしめた。

彼からは温かい、太陽の匂いがした。

「その時は私たちを呼びなさい。
秘密の呪文を教えよう。
“エトル・アル・ヴァハル”―」

「エトル・アル・ヴァハル……」

その時、プティの花びらが散り、宙を舞い、二人の背中で翼の形となったのを、シルフィは見た。

確かに見たのだ。

花びらの翼――

人間でも空を飛べる、翼!