「本当に、伝説のアンティスト様と、妖精王様…なの?」

案内された小屋で着替えたシルフィがおずおずと尋ねると、二人はしっかりと頷いた。

「いかにも。無論、信じられずともよい。だが、信じても損はさせぬ。
私と妖精王は900年ぶりにこの地に戻ってきたんだ。
そして…がっかりしたよ。すべて、最初から、やり直さなければならないと思った」

「やり直す…?」

「金の炎で、この歪んだ都市を、人間もろとも焼き尽くす」

「そんな…!」

今にして思えば、アンティストはわざとこのように挑発的な言い方をしたのだろう。シルフィが生きる意欲を取り戻すように。

「やめて、殺さないで…父様と母様を、みんなを、殺さないで!」

シルフィがアンティストにすがりつくと、彼はこの上もなく優しい目をしてシルフィの頭を撫でた。

「…優しい子だな」

妖精王も微笑んでシルフィに語りかけた。

「お前をみつけたから…私たちは少し気が変わった。私たちはお前を、“運命の英雄”に選ぶことにした」

「運命の英雄…? なにそれ…?」

「知らないのか。この世界の行く末を左右する、選ばれし人間のことだよ」

「そんな人を…あたしにしていいの?」

「ああ。だが大変だぞ。お前は生きて、これから、この世界に人間と妖精の絆を取り戻させなければならない。お前がまた死のうとしたりなどすれば、私たちは皆を焼き尽くす。お前が絆を取り戻せなければ、やはり焼き尽くす。さあ、泣いている暇はないぞ? 急ぐことだ」