「待ってよ二人とも! 今は喧嘩するような場面じゃないでしょ? せっかく、一緒に、危機を乗り越えたんだから」

引き離された二人はそれぞれにそっぽを向いて鼻を鳴らす。

「あたしは嬉しいよ! ファイツのことも、テフィオ先生のことも、だ~い好きだから! これからも一緒にいられて、嬉しい」

そう言ってシルフィは二人ににっこりとほほ笑みかけた。

それはこの風の丘に小さな野の花が咲いたような、そんな可憐な笑みだった。

険悪だった空気を一気に変える力を秘めた笑みだった。

ばつが悪そうに黙り込んだテフィオとファイツに、シルフィは笑顔のまま続ける。

「あたしたちの絆(プティ)が、プチを動かしてくれたんだと思うの。ねえプチ?」

『うん! そうだよ!』

「俺たちの絆…だと?」

テフィオの声には力がなかった。すなわち、いつもの“うんざり”感がなかった。

「言ったでしょ、絆はどこにでもあるって。あたし、二人にも知ってほしい。絆のこと、もっともっと。大好きで、大切な二人に」

ファイツははっと息をのんだ。

シルフィに大好きだと言われるのは二度目だと気付いたのだ。

そして…自分が前回それを言われた時とはまったく違う心持になっていることに気づいてしまった。

なんだか変だが、ファイツはこの時はじめて、この風の丘に“風”が吹いていることを感じた。

風が吹き、流れ、優しく触れては過ぎ去っていくこと…。

テフィオもだった。

風を感じて、その中に、…願いのようなものを感じていた。

願い、それは自分が抱く願い。

ふと、思い起こされる。本当に幼い頃、父が肩車をしてくれた時に見た景色と、感じた風…。

「でもね」

シルフィの声が二人を現実に引き戻す。

穏やかに微笑むシルフィは、風と共にあるのがあまりにも似合っていた。

「あたし、二人に言ってないことがあるの。
二人のことが本当に大切だから…今、話しておきたいの。
聞いてくれる?」

二人に否やはなかった。

風と共に在るシルフィを、今しばらく見ていたかったのだ。


「あたし、滅亡の日について、詳しいことを知っているんだ」


シルフィが語りはじめたのは、テフィオとファイツの二人の想像を絶する内容の話であった。