「お前…シャドウ?」

そう、いつのまにか、シルフィの友、黒狼のシャドウが樹の反対側で丸くなっていた。どうやら最初からそこにいたらしい。相変わらず神出鬼没だ。

「運命の英雄が選ばれているだと? それはいったい…」

テフィオは息せき切って尋ねたが、シャドウはマイペースにあくびなどして答えない。かわりに、

『プティの樹がどんな樹だか知っているか』

と尋ね返してきた。

「どんな樹って…」

テフィオが答えあぐねていると、『お前の忘れた樹さ』と謎かけのような声が聞こえた。

それきりシャドウは何もしゃべらなかった。

「どいつもこいつもわけのわからんことを…」

愚痴りつつ、テフィオはこの空気に不思議と居心地の良さを感じていたので、シャドウを追い払おうとか、自分が立ち去ろうとかは思わなかった。

シャドウには聞きたいことがたくさんあった。

シルフィのことだ。

テフィオはシルフィのことを何も知らない。

だが、今はやめておいた。

一人と一匹は、朝焼けが終わり空が一面青く澄み渡るまで、静かに共に呼吸を繰り返したのだった。