「あっ」
再び夏希の方に視線を移した時、そこに夏希の姿はなかった。
「夏希……?」
やっと呼べた名前。
やっと出た声。
だけど、遅かった。
「……ち、なつ。今、の」
後ろから、鞄が落ちる音とお母さんの震えた声が聴こえた。
お母さんは、見たのかもしれない。
「あ、あ……」
あたしはゆっくりと立ち上がってベランダへと近づく。
だけど、ベランダに出ても下を覗くことは出来なかった。
そっと、頬についた夏希の涙に触れる。
涙は、あたしの指先に移り、すぐに溶けてなくなってしまった。
「なつ、き……け、警察っ!」
お母さんのそんな声を聴きながら、何が起きたのか必死に理解しようとする。
でも、分からない。
夏希は、何処に消えたの?
少しずつ理解していく頭を押さえ、分からないままでいようとする。
それでも、少しずつ、少しずつ、分かっていく。
「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!」


