「あっ……」
そんなことで、怖くなった。
でも夏希は、風が吹いても手すりに立ったまま。
そのことに安心したのも、一瞬。
「お姉ちゃん、バイバイッ」
夏希がそう言う。
風で夏希の涙が綺麗に空を舞った。
その中の一粒が、あたしの頬にかかる。
「な、」
夏希の名前も、呼べない。
一体、あたしはどうしてしまったのだろう。
お願い、今だけでもいいから声、でて!
そうじゃないと、夏希が……っ
必死に祈っていると、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー、夏希、千夏ー?」
もう夜の8時を回っているから、お母さんが帰って来たようだ。
いつもこの時間は、ご飯を食べ終わってリビングにいるあたし達。
でも、今日は違う。
「あれ?いない……」
下にいるお母さんの声が、なぜかよく聞こえる。
「おーい、夏希、千夏ーー!!」
お母さんが階段を上ってくる音が聴こえた。
あたしはつい、そっちの方向を見てしまった。
たった、一瞬のこと。
だけど、その瞬間。


