弱い、弱い。

 あたしは、本当に弱い。


 昔から、夏希を傷つけることしか出来なくて。

 夏希を恨んで、疎ましく思って。

 そして、夏希をグサグサに切りつけて傷つけてきた。



 これは、そんなあたしへの報復だ。

 これが、あたしが夏希にしてきたことなんだ。



 そう思うと、あの時の自分を殺したくなる。

 そして同時に、夏希に会って謝りたくなる。



 涙をぽろぽろ流しながら、あたしは大切な人の名前を呟いた。



「な、つき」


「誰なんだよ、夏希って」


 涙だけの凍えた部屋に、はっきりとした声が響いた。

 驚いて玲汰先生を見る。


 玲汰先生は少し怒ったような顔をしていた。



「お前、ずっとずっと夏希夏希って……なんだよ、そいつ」

 まるで、分からないことが嫌だとでも言うかのような口調で、玲汰先生はあたしに尋ねてくる。


「せんせ……」


「ああ、もう!いきなり玄関のドアが開いて、マジでびびったし。そしたらお前が抱きついてくるし。なんか泣いてるし。夏希とかそいつの夢見たとか、意味分かんねぇ」