このままじゃあたしは最悪な選択を選んでしまう気がする。
だから、玲汰先生に止めて欲しくて。
あたしは立ち上がってキーケースを手に取ると、時間なんて気にせずに走り出した。
階段を降りて、まだ灯りが灯るリビングを横切る。
玄関で靴を履いていると、リビングからお父さんとお母さんが出てきた。
「なに、してるんだ?こんな時間に」
「どこ行くの?」
あたしは一切問いかけに応じない。
今はただ、玲汰先生に会いたくて。
会いに行くことだけを考えていて。
「答えなさい、千夏」
お父さんの静かだけど怒りのこもった声が玄関に響く。
それでも立ち上がって外に出ようとしたあたしの腕を、お父さんが掴む。
あたしはお父さんの顔を睨むように見た。
久しぶりにちゃんと見た顔は、少しやつれていた。
「お前ってヤツは!夏希のことを考えないのか!!」
お父さんが怒鳴る。
あたしは、そのセリフに痛みを覚えた。
考えてるよ。
あたしだって必死に考えてるよ。
どうやったら償えるかって。
いつだって、苦しんでる。
お父さんは、いつでも夏希だ。
夏希がいなくなった、今でも。


