よく分からない感情があたしの心を支配する。




「ん?なんだこの字……読めねぇ」


 この前した小テストの採点をしているのだろうか。

 玲汰先生は、プリントと睨めっこしながら赤いペンを走らせていく。



 あれ、すごい難しかったなぁ。

 文系だからな、あたし。


 なんて、この前した小テストのことを考えながらも、あたしは玲汰先生から目が離せなかった。





 そのまま一つも動かずに玲汰先生を見つめていると、玲汰先生は採点を終えたのか、満足そうな笑みを浮かべた。





 ードキッ


 速まっていた鼓動がこの瞬間、大きな音を立てた。

 その音は耳にまで聞こえてきて、まるで静かな部屋全体に響いたみたいだ。



 見たことない、子供みたいな笑顔。


 嬉しそうに微笑みながら、玲汰先生はプリントをまとめて鞄に入れる。

 そして、玲汰先生は背伸びをした。


 達成感、とやらを感じているのだろうか。

 すっきりした表情の玲汰先生とは反対に、あたしの心はモヤモヤした雲に覆われていた。




 ただ、頭の何処かで、何かが始まる気がした。