「ねえ、あだ名、付けてもいい?」


 いきなり、人の家でくつろぐ生徒がそう口にした。



「はあ?お前、誰に向かってそんな口聞いてんの?」


 俺は、そいつを思い切り睨んだ。




 あの日、補導された林田千夏(ちなつ)。

 俺の生徒。


 あの日、あいつを俺は家に招き入れた。

 帰りたくないと言ったから。


 正直に言うと、面倒臭かった。

 あいつを説得するのが。



 そして、俺の家で、俺の腕の中で、あいつは泣いた。

 まるで、溜まっていた感情を吐き出すかのように。


 〝夏希〟


 あいつはそんな名前を口にした。

 あいつにも何かがあるってことは、その時分かった。


 俺はそれを知った時、ただ単に羨ましく思った。

 だって俺には、泣きながらすがる相手がいないのだから。



 そして、次の日。

 あいつに言われた言葉。



『本当は、人からの目が怖いんだよ。誰かに自分を受け入れてもらえないのが怖いんだよ。』

『先生は避けてる』