先生から視線を外しても、あたしは先生のことを考えなくなったわけではなかった。
先生も、なにかあったのかな。
なにか、誰にも言えない様なことがあったのかな。
ずっと悩んでいることが、自分を苦しめ続けていることがあるのかな。
あたしは、自分が傷つくのは良いと思ってる。
だって、あたしはきっと、苦しまないとダメな人間だから。
それくらい、あたしは夏希に酷いことをし続けていたから。
でも、他の人には傷ついていてほしくない。
なにがあったのかなんて知らないけど、傷ついていてほしくないんだ。
あたしみたいに、なってほしくないから。
………なんて言ったって、きっと、可笑しいって笑われるんだろうな。
「………あ、パン食べたんだ」
先生があたしに気付いたみたいで、そう言ってきた。
あたしは先生の方を見て、
「あ、うん……だ、ダメだった?」
「いや、別に」
もう先生は、さっきみたいな瞳も顔も捨てていて、携帯も、手の中にはなかった。
本当に、まるでさっき見た顔が、あたしの勘違いだったのかと思えてくる。
きっと先生も、あたしがあの顔を見ていたことに気付いていないだろうし、もう普通なんだから、何も知らないフリをしたらいいのに。
そうするのが、優しさなのに。
あたしは、どうしても動揺してしまっている。
本人よりも。


