でも、ちょっとこれは引く。
カレー、パン、野菜炒め、卵焼き、漬物、ご飯………
果たしてこれが、成人男性の一人暮らしの冷蔵庫なのだろうか。
「先生、これ……」
「ああ、それ昨日のだし、大丈夫」
驚いて先生の方を見ると、煙草を吸いながら携帯を見つめていじっている先生は、そう軽く答えた。
いや、そういうことじゃないんだけどな……。
そう思いながらも、あたしはロールパンを手に取って、冷蔵庫の扉を閉めた。
「ねぇ、先生……」
パンを袋から出しながら、先生にそう話しかけたけど、すぐにやめた。
本当は、昨日のことを聞きたかったんだけど。
だって、先生があの時どう思ったのか気になったから。
でも、
携帯を見つめる先生の瞳が、寂しげに揺れたことを見てしまったから。
反射的に、聞いちゃいけない気がして。
いや、ただ単に、驚いただけなのかも。
あんな悲しい顔、見たことなかったから。
当たり前だけど、先生がそんな顔をしたことはなかったから。
あたしは、知っている。
その顔をするときは、他の人には触れられない、触れてはいけない、何かがあることを。
……だって、あたしもそんな顔をしているはずだから。
何回したかとかは分からないけど、絶対、昨日はそんな顔をしていた。
だからあたしは、視線をパンに移して、パンにかぶりついた。


