「なんか、食う?」
呆然と立っているあたしに、先生がキッチンの方から話しかけてくる。
その言葉で、あたしはハッと我に返った。
すっかり見惚れてた……。
ブンブンと頭を振って、思考を朝食に移した。
言われてみれば、確かにお腹空いてるかも。
「あ、うん……」
そう小さい声で答えたのに、先生は耳が良いようで、先生の居るキッチンとあたしの居るここは意外と離れているのに、すぐに返事が返って来た。
「じゃあ、ちょっと来て」
「…分かった」
そう言ってキッチンの方に歩きながら、考える。
本当に、昨日のこと、先生は忘れてしまったのだろうか。
いや、そんなことはないよね。
でも、そう思ってしまうほど、先生は何事もなかったように接してきた。
だから、まるで、昨日のことが夢だったみたいな気さえしてくる。
これを夢じゃないと教えてくれているのは、
あたしが今、ここにいることと、
先生が昨日の夜と同じ、冷たい口調だということ、だけ。
キッチンの入り口、昨日と同じように冷蔵庫の前に立ったあたしを見た先生は、
「……冷蔵庫の中に色々入ってるから、適当に選んで」
と、言った。
あたしは冷蔵庫の扉を開ける。
その瞬間、あたしは驚きで固まってしまう。
すごい、なんでも入ってる。
パック詰めされた食べ物が綺麗に整頓されて入っていた。
確かに、わざわざ性格を変えてまで教師をしている人だ。
綺麗好きというか、こういうのをしていても可笑しくはない。


