それでもここに来たのは、今からする話を他の人に聞かれたくないから。


 あまり人が多いところでは、とても出来る話ではないのだ。




 向かい合う体勢のあたし達。


「……で?なに、千夏」


 久しぶりに呼ばれた名前に、少し緊張する。

 美和は腕を組んだ。



 あたしはすぅっと息を呑む。



「あの……噂、流したのって、美和……なの?」


「あの、噂……」


 美和は考え込むように視線を少し、落とした。



「ほら、あたし、と玲汰先生が抱き合ってる……」


「……千夏って、宮城先生のこと玲汰先生って呼んでるんだね?」



 あたしの話を無視し、突然そう言ってきた美和に驚いて、あたしは目を見開く。

 美和は、あたしをじっと見つめたまま。



 美和のいきなりのその言葉の意味がよく分からない。


 玲汰先生って呼ぶのは当たり前だし……。

 そう不思議に思ったところで、あたしは美和の言葉の意味を理解する。



「あっ……」


 やってしまった。


 そう思い、あたしは口を手で覆いながら美和から目を逸らした。