「……じゃあ、もう帰るね」
明日からはもう、この日々とは違う日々を過ごすことになる。
新しい日々……いや、元の日々に戻るんだ。
もうこの家に来ることもないし、玲汰先生とは元の関係に戻るんだろう。
学校での優しい玲汰先生と関わるようになるんだろう。
「……ああ」
最後に聞いた玲汰先生の言葉は、やっぱり冷たくて感情がこもっていないような声だった。
目も合わせない玲汰先生は、やっぱり冷酷な人。
あたしは少し胸を痛ませながら、立ち上がって鞄やコートを持つ。
リビングに出る時や玄関を出る時何度も振り返ったが、玲汰先生が追いかけて来ることはなかった。
声がすることも、なかった。
当たり前のことなんだけど、心の何処かで止めてくれるんじゃないかと期待している自分がいて、勝手に傷ついた。
終わりは、こんなにもあっさりとしているんだ。
確か夏希の時も、一瞬のことだった。
家を出てしまってからはもう、まるで何事もなかったかのように。
ただ誰かのマンションにいる、ということになってしまっていて。
ついさっきまで感じていた胸の温かみはもう、何処へ消えてしまっていて。


