あたしから、大切なものを惜しげもなくむしり取っていく。
どうして、あたしはこんなにも恵まれていないのだろう。
でも、受け入れるしかないのだ。
「だけど、今だけはっ……」
今だけ、泣いてもいいですか?
泣いたらちゃんと、受け入れるから。
今だけ。
今だけ、現実から目を背けさせて……。
「っ……ぁぅ……ヒック」
泣いて、泣いて、泣いた。
授業の始まりのチャイムも、終わりのチャイムも聴いた。
それでも、泣いていた。
そんなあたしが泣き止めたのは、トイレのドアを開く音が聞こえたからだった。
もう授業も終わったのだ。
人が来るのも普通のことだろう。
「ねえ、結局千夏ちゃん来なかったねぇ」
「いや、当たり前でしょ。だって理科だもん」
その声から、クラスの女子だと分かった。
噂をされるだけでも怖かったけど、あたしは息を潜めながら二人の会話に耳を傾ける。


