「俺は親父の優しい所も知ってたし、いつか直るって信じていた。だけど、暴力は酷くなる一方で……」



 あたしを包む玲汰先生の腕が震える。

 きっと、その時のことを思い出しているんだろうな。




「でも、それも終わったんだ。……俺が、中学3年生の時に。俺にはその時、幼馴染がいた。女だったんだけど、俺は誰よりそいつを信頼していて。だから、親父のことも相談していた。それで、そいつが親父に暴力を止めろと言ってくれたんだ」



 誰よりも信頼している、女の幼馴染……


 何故だろう。写真の彼女が頭に過ぎったのは。



「そのおかげで親父も俺に謝ってくれてさ。……久しぶりに、穏やかな時間を過ごせたんだ」


 嬉しそうで、だけど何処か切なげで。

 玲汰先生の声は、そんな感じだった。




「そして俺は、その幼馴染のこと……好きに、なってた」


 ドクンッと胸が跳ねる。

 理由はよく分からないけど、少しだけ悲しく思ってしまったんだ。




「……そいつと俺は同い年だったし、丁度中3ってのもあって、卒業したら告白しようって思ってた。それで俺は卒業式の日に告白して……付き合うことに、なった」


 玲汰先生から聞く話。

 何故だか聞きたくなくて。


 この感情を何かに表すなら……嫉妬。


 そんなの絶対、可笑しい。

 だけど、それ以外の胸に収まる答えが出てこない。