だけど、玲汰先生に頭を押さえられ、玲汰先生の顔を見ることは出来なかった。
「……このままで、聞いてほしい。…こわ、いんだ……お前にどんな顔を、されるのか、が。俺、お前みたいに強く、ないから……」
今までに聞いたこともないくらい、震えている声。
そして、いつも余裕そうにしている玲汰先生の、『怖い』というセリフ。
あたしは尋常じゃない玲汰先生に何かを察し、ゆっくりと身体の力を抜き、元の体勢に戻った。
「……俺がまだ、小学生の頃なんだけど」
あたしが玲汰先生の要望を受け入れたことを感じたのか、玲汰先生はゆっくりと語りだす。
「小さい頃に両親が離婚しててさ、俺は、父親と一緒に住んでいた」
「…………。」
あたしは玲汰先生のように頷いたり優しく聞くことが出来ないから、黙って話を聞いていた。
あたしは、本当にこういうのが苦手だから。
変な言葉や気遣いは、逆に玲汰先生を傷つけてしまう気がして。
「……正直、いつからだったかは覚えていない。でも、気付いた時にはもう……親父に、暴力を振るわれるようになっていた」
信じられない話に、少し肩が跳ねた。
あたしが夏希の首を絞めた話をした時、玲汰先生は動じなかったのに。
あたしって本当、出来ていない人間だなぁ。


