~千夏side~
玲汰先生の家に着いて、あたしはあることに気付く。
鍵を、忘れた。
涙を流し、頭の中は混乱していて。
ただ、お母さんの言葉に傷ついていて。
そんな状態なのに、いや、そんな状態だからこそだろうか。
鍵がないと分かった瞬間、あたしは反射的に玲汰先生の家のインターホンを押した。
走ってきたから、肩は上下に揺れ、息も上がっている。
そして、涙でぐしょぐしょの顔。
こんなあたしを見られるのは少し恥ずかしいけど、もうそんなこと言ってられない。
それくらい、あたしの心は追い詰められていて。
玲汰先生は、誰が来たのかを確認しない人なのか。
少し待っていると、いきなりドアが開いた。
その瞬間、あたしは顔をバッと上げる。
「はーい………って、え?」
玲汰先生の驚いたような声が頭上から聴こえる。
玲汰先生が驚くのも、無理はないと思う。
だってあたしは、
玲汰先生に抱きついているのだから。


