ずっと知らないフリをしていた気持ちに、気付き始めている自分がいて。

 止めたくても、止められない自分がいて。



 どうしよう。どうしよう。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だっ!





「玲汰先生……」


 最後に出た答えは、それだった。







 あたしは布団から飛び降り、コートを羽織るとすぐに部屋を出て行く。


「れい、たせん、せ……っ」





 走って玄関まで来た時、あたしが階段を降りる音に気付いたのか、リビングからお母さんが顔を出した。







「……どこに、行くの?」


「……別に」


 あたしはお母さんに背を向けたまま、靴を履きながらそれだけ言った。



「…………。」

 お母さんは黙っていた。



 あたしは玄関のドアに手を掛ける。


 その時、

「……夏希は生きることすらできなかったのに、あんたは自由ね」





 胸が、痛んだ。