あたしは目を見開き、固まってしまった。
お母さんはそれだけ言い残し、階段を駆け上がって行った。
二階には、寝室がある。
お母さんは昔から、嫌なことがあるとすぐに寝室へ逃げ込む癖がある。
きっと、今日もそうするのだろう。
「……最低、か」
そっと呟いた。
そして、胸を痛めた。
何度避けようと、変わらない事実がある。
現実が、ある。
あたしが夏希を殺したのは変わらないし、お母さん達があたしを恨んでいるのも変わらない。
それだけ、目を閉じても、耳を塞いでも、目の前にあるのだ。
「……っ」
あたしは玄関のドアを開けて家から飛び出した。
最低。
最低。
最低。
どれだけ走って逃げても、その言葉から逃げることは出来なかった。
あの目から、逃げることは出来なかった。


